日本版SWFについての講演

06.business relatedfinance

今週の金曜日、仕事の合間を縫って金融財政事情研究会の金曜例会というところに顔を出してきた。日本SWFについての講演である。

講師は、自由民主党国家戦略本部内の「SWF検討プロジェクトチーム」の事務局長であり、SWF推進の旗振り役を務める田村耕太郎参議院議員。

↓センセのページとその日の様子をつづったブログ

http://kotarotamura.net/b/blog/index.php?itemid=2316

これはうちの会社の役員(社長、理事?)、よくわからないけれどお偉い方々が入っているらしいけど、興味がないのか忙しいのか、理由はよくわからないけれど、自分は結構この日本版SWF(Sovereign Wealth Funds)興味があるので、誰も行かないなら参加したいと主張していくことになった。

会場は信濃町駅徒歩数分のところにあるのだけれど、会場の前には高級車、といっても黒塗りの国産車、あのやたらでっかいクラウンとか、そういうのが、所狭しと台数にてざっと10台程度並んでいた。もちろん運転手つきで。

ああ、場違いのところにきちゃったかも、でも幸いスーツ着てきてよかった、なんて思いながら引き下がるわけにもいかず会場に乗り込む。受付の方に案内のハガキを渡すとなにもチェックせずセミナールームへと案内された。

いろいろとカルチャーショックが。ひとことでいうと「ああ、昭和っぽい」というかんじ。

まず、参加者の年齢が異様に高い。見たところ、少なくとも会社役員以上、多くはなんかそういった著名金融機関とかのOBっぽいご老人ばかり…。あと驚いたのが、灰皿がある席があること。ランチ込みのセミナーだったので、お茶とかお弁当とか置いてあるのはわかるが、さすがに喫煙できる場所があるとは…。もちろん禁煙の席に座った。

で、目の前にはどうやらこの日の前日か3回目の下方修正を出した某メガバンクの役員っぽい人が座っていた。グループ会社の役員を兼任しているっぽく、午前中に2回の取締役に参加して大変だったみたいな話で盛り上がっていた。で、次に突然ゴルフ話。まわり数人が一斉に盛り上がった。う?ん、やっぱり昭和っぽい。

さて、僕が会場について5分くらいしてから講師が登場。なんとまあさわやかなスーツだこと。

特に手元資料もなく、彼がひたすら熱く熱意を語るという形式だった。でも、それなりに具体的な話もした。

彼曰く、この日本版SWFの大義名分は「あらゆる経済変動から国民の財産を守る」ってことらしい。

たとえば彼曰く、原油価格が1バレル110ドルになったのは、投機筋の影響もあるなんて話もあるけど、それを否定しないものの、実際中国やインドの強い需要が存在しているのも確かなので、今後も高騰するという見方もありうる。

また、アメリカの大統領選ではどうやらオバマが勝ちそうな勢いで、そうなるとイラク政策への出費がおさえられる可能性があり、中東の地政学リスクの高まりがさらなる原油価格上昇につながるかもしれない。

ご存じのとおり原油高上昇はインフレにつながっていく。そんな掲載状況の中で、今迄と同じように現金や国債だけを持っているだけではインフレについていけず、本当に国民の資産を守れるのか。そうならないために行うべきが、日本版政府ファンド構想だと。

また、よくある反論に対する「反論」でおもしろかったことも言っていた。

「先進国は一切SWFやってないよね」という反論に対し、彼は、「実は先進国の政治家、財務省、中央銀行の知り合いとこのことについて話したところ、彼らは口をそろえて日本はそんなにたくさんの財産があってうらやましい。うちの国ではやりたくとももともとそういった財産がない」っていうのだと。本当なのだろうか?

まあ、いろいろと理想的なことは浮かび上がってくるのであるが、彼が一番気にしていたことは「ファンドのガバナンス」である。簡単にいえば、たとえばこんなこと。

?どこまで民間がやって、どこまで政府が関与するのか

?リスクをどうやって定義して管理するか

?パフォーマンスが悪かった時の責任の所在をどうするのか

これを聞いて結構実現はむずかしいな、と思った。?は絶対に無理だろうと。まず、国民のファンドに対する理解・知識が乏しすぎる、そしてそれはもちろんマスコミも同様。田村先生は直接言っていなかったけれど、ファンド運用でとても大事なのは、「負けた時の言い訳を客観的にする。言い訳のための準備を常日頃から怠らない」ことだと思っている。政府系機関=役人がこれを実践できるとは難しいと思うし、仮にそれができたとしても、国民と国民に情報を伝えるマスコミなんか絶対に理解できないことは目に見えている。

あとは運用はプロにまかせるというが、彼らに対してのフィーの払い方。ファンド、特にヘッジファンドに見られる成功報酬があるが、そういうものを国民の資産から支払ってもいいのか、でもそうしないと優秀なファンドマネージャーはこないんじゃないか、という議論。

結論を出せない、いちいち細かいことや本質的でないことに首をつっこむひとが多いこの国では不可能かもしれないな?って思いながら聞いていた。

1時間ほどして講演終了、質疑応答。前に座っているお偉いかたっぽい人から質問が2つ飛ぶ。

「それで日本株を買ってくれ」

「財務省の言うとおりにしたら失敗するよ。なんなら財務省案のファンドと田村案のファンド二つ作って競わせればいい!結果は明白だ」

以上、という感じだった。これについては正直ノーコメント。

僕もちょっと気になったことがあったんだけど、このメンバーのなかとさらに直前の質問の内容を考えると到底質問する気になれず会場を後にした。

質問したかったことは、シンプルで「実際ファンド規模はどのくらいが適切なのか」ということ。内容はシンプルでも実は結構考えさせられることが多い。特に大事なのが目標収益率と収益額そのものだと思う。どちらもファンド規模に大きく依存する量だ。収益率は市場の流動性が関連してくるので、あまりに巨額の資産を運用しては、高い収益率を望むことはできない。そして、収益額については、いくら出せば、前述の大義名分「国民資産を守る」ことができるのか、ということに直結する。

参考になるかどうかはわからないが、別の話でハーバードとかイェールといったアメリカの有名大学の基金運用についての話がでた。それぞれ数兆円規模の運用を行っており、昨年の利回りが15%、20%だったようだ。アメリカの運用業界には優秀な人が多いこと、またアメリカの対象運用資産のほうが、日本の同規模のファンドの投資対象に比べると高流動性だといえるため、この規模でこれだけの利回りを実現できたと思うので、そのことを踏まえると、日本ではおそらく頑張っても、数兆円規模のファンドで頑張っても年率10%が限界なのではないかと想像できる。つまり年間数千億円の運用益しか出ないことになる。

そしてさらにファンド規模を数十兆円に拡大したとしても、それに反比例して利回りは下がると予想されるため、結局のところ、運用益はどんなに規模を拡大しても数千億円というオーダーを超えることはないように思われる。

となると、そもそも1兆ドル規模の外貨準備金の運用益がすでに数兆円だし、どうやら、

という事実もあることだし、あえていろいろ関連機関等を調整してSWFを実現する必要ってあるなかな?、なんて思ったりもしたわけだ。

どうもこういうことに限らずよくあることだけど、実際いくらだとどの程度インパクトがあるのかといった、サイエンスではよくある「評価する evaluate」って作業を常に念頭に入れた議論ができないのが文系っぽいひとたちには多いんだけど、もちろんこういうこともきちんと考えていますよね?。

ということについてどう考えてますか?ということを聞いてみたかったわけだ。でも結局しなかったんだよね?。もっともその場でこんなにいろいろと考えを整理しながら質問はできなかったけれど。

ただ、この田村議員というのはとってもカリスマのある人で、金融に関しても非常に高度な知識を持ちそして高度な議論でできる方で、こういう政治家であれば日本の金融や経済の発展に貢献してもらえそうだなあ、と感じたのは事実だ。

いずれにせよいろいろ賛否両論あれど、この動きには今後も着目していきたい。

タイトルとURLをコピーしました